魅惑の黒蝶ジャコウアゲハ。奇怪な生態と毒性、他の黒蝶との関係
こんにちは!生き物大好き、ゆるとです!
ふらふらとゆっくり飛び、普段はいない地域に突然出没することもあるジャコウアゲハ。
そんな魅惑的なジャコウアゲハの、名前の由来、怪しい生態、毒性、他の黒いアゲハチョウ類との関係、について解説します。
それでは行ってみましょう!
ジャコウアゲハの生態
分類・・・チョウ目、アゲハチョウ科、ジャコウアゲハ属
分布・・・秋田、岩手県より南の日本全土
前翅の長さ・・・45mm~65mm
活動期間・・・4月〜10月、冬は蛹で冬眠する
エサ・・・成虫は主に花の蜜を吸う
生息環境・・・河原や荒れ地でよく見られる、山林や渓流に現れることもある
繁殖期・・・1年のうちに3~4回、成虫が発生する
名前の由来
「ジャコウ」の意味は?
ジャコウアゲハのオスの成虫を捕まえると、甘いような酸っぱいような独特な匂いがします。この匂いが、惚れ薬や香水の原料になる「麝香じゃこう」に似ているためジャコウアゲハという名前が付きました。
この「麝香」は、ジャコウジカという鹿のオスの腹部から分泌される液体を乾燥させたもので、メスのジャコウジカを誘惑する匂いが含まれています。その魅惑的な香りと薬効は、古くから人々を虜にしています。
この匂いの正体は「フェニルアセトアルデヒド」という成分で、現在はタバコの香りを増幅させるために添加したり、ソバやチョコレートなどにも含まれています。
江戸時代には「お菊虫」と恐れられた
一枚・・・二枚・・・と幽霊がお皿を数える、怪談「皿屋敷」をご存知でしょうか?この話に登場する女幽霊の名前は「お菊」と言います。
怪談皿屋敷の舞台になった姫路城下では、江戸時代に突如、気味の悪いサナギが大発生しました。一般的な蝶のサナギは幼虫がエサにしている植物にくっついていますが、ジャコウアゲハのサナギは雨の当たらない、ざらざらした壁面を好むので尚更異質に見えたのでしょう。
よく見るとサナギの上半身には唇の様な真っ赤な突起が二つ、下半身はヘビ、そしてサナギを支える糸は、後ろに手を縛られている女性のように見えたため「お菊」が虫になって表れたと恐れられました。
異形の幼虫時代
サナギだけでなく幼虫もかなり変わった特徴があります。一般的なアゲハチョウや、ジャコウアゲハ以外の黒いアゲハチョウは、生まれた時は鳥の糞に擬態した黒っぽい色をしていて、成熟すると緑色の丸っこいイモムシになります。
ところがジャコウアゲハの幼虫は成熟しても黒っぽいままで、体に生えているいぼ状の突起が長く伸びていきます。異質な見た目だけでなく、兄弟同士でも生存競争が勃発します。
幼虫が十分成熟すると、ライバルを蹴落とすために食べている草の茎を噛み切って落としたり、自分の近くに他のジャコウアゲハの幼虫がいると共食いを始めることがあります。
綺麗な蝶には「毒」がある
突然の発生と、毒の関係性
お菊虫が突然大発生したように、ジャコウアゲハをそれまで見かけなかった地域でも突如発生することがあります。これは、ジャコウアゲハが体内に毒をため込む性質が深くかかわっています。
卵、幼虫、成虫すべてが毒を持っていますが、この毒は体内で作られるのではなく、幼虫時代にウマノスズクサという毒草を食べることで体内に蓄積、濃縮していきます。他の黒いアゲハチョウはミカン科の植物を好み、キハダ、カラスザンショウ、など様々な種類を食べますが、ジャコウアゲハはウマノスズクサ科の植物でも一部のものしか食べません。
その為食べられる草が少なくなると周辺を探し回り、かなり長距離を移動すると考えられています。またウマノスズクサに含まれる毒には幼虫の食欲を刺激する効果があり、幼虫同士がこの匂いに誘われて共食いすると考えられています。
致死性は低いが・・・
ジャコウアゲハの毒は致死性が低く、捕食した鳥や動物などが死ぬことはほとんどありません。しかし毒性自体は強力でかなりの苦痛を伴い、捕食した動物は胃の中のものをすべて吐き出して苦しみます。
これは致死陸の低さを逆手に取った戦略で、あえて生かしておき、強烈なトラウマを植え付けることで「黒い蝶は危険」だと学習させ生存率を高めています。
人間も苦しんだ
毒の主成分は「アリストロキア酸」という物質で、発がん性や、腎臓の機能に影響を与える毒性があります。
ウマノスズクサは古くから漢方薬やハーブとして使用されることもありましたが、腎臓に重大な障害を起こし人工透析や腎臓移植した事例や、腎炎、重度のアトピーなどの事例が報告され、原因はアリストロキア酸であることが分かりました。
現在では成分分析の結果、アリストロキア酸が含まれているものは漢方などに使用できなくなっています。
他の黒いアゲハチョウについて
魅惑的に美しい種が多い
この記事を読んでジャコウアゲハの妖艶な魅力に取り付かれてしまった方もいらっしゃると思いますが、他の黒いアゲハチョウたちも息を呑むような美しさがあります。
黒を基調として、白や赤の斑点がシックな雰囲気を醸し出し、翅は見る角度によって青や緑にきらめく美しさがあります。
また黒いアゲハチョウは同じ場所を周回して飛ぶ、「蝶道」を作る習性があり、さながらランウェイの様に優雅に飛びます。
大きさは日本最大級
実際に捕まえてみると気が付きますが、黒いアゲハチョウ類は一般的なアゲハチョウ類と比べて一回り以上大きい傾向があります。
一般的なアゲハチョウでも大型のキアゲハは、翅を広げた長さは70mm~90mmほどですが、黒蝶のモンキアゲハは110mm~140mmと日本最大級の大きさがあります。カラスアゲハやクロアゲハなども80mm~110mmと、大型であることがわかります。
ジャコウアゲハに擬態してる?
オナガアゲハなど一部の黒い蝶の中には、自分と同じ種類に比べ翅が細長かったり、後翅の突起が長いなど変わった外見を持つ物がいます。
この様な黒蝶はジャコウアゲハによく似た翅の形をしていて、毒のある生物に擬態することで身を守っていると考えられています。
ライバル出現! 白い毒蝶
一見して敵が少ないように見えるジャコウアゲハですが、外来種の白い毒蝶が出現したことで生存が脅かされています。
名前はホソオチョウで、全体的に白っぽい翅に黄色と黒のまだら模様があり、中国、朝鮮、ロシアなどに生息、故意に日本に持ち込まれた可能性が高い外来種です。この蝶はジャコウアゲハと同じウマノスズクサを食べるだけでなく、一回の産卵回数が多いなど繁殖力が高い点も問題です。
実際にホソオチョウが多数生息している地域では、ジャコウアゲハの生息数が減少していることが確認されています。
後ろ翅の突起が細長いのが特徴でとても美しい色合いをしいていることもあり、一部地域で保護活動が行われているなど、外来種としてはあまり知られていません。そのせいか国内でも人為的に放蝶されている形跡があり、分布が拡大しています。
捕獲は簡単で観察し易い
魅力的な物が思わず欲しくなってしまうのは本能ですよね。実はジャコウアゲハの捕獲、飼育は簡単です。
まず川原などでウマノスズクサが生えている場所を探し、幼虫や黒いアゲハチョウが飛んでいないか確認します。ジャコウアゲハは一年に3~4回発生するので、幼虫または成虫が見つかれば、寒くなる10月頃まで観察することができます。
ジャコウアゲハは飛ぶのが遅く、決まったルートをぐるぐる回る習性があるので、一度見つけてしまえば虫網で簡単に捕まえることができます。
アゲハチョウ類はサナギまで育てても寄生虫により死んでしまい、羽化しないことも間々ありますが、ジャコウアゲハは毒を持っていることでほとんど寄生されることがなく、安心して羽化を観察することができます。
最後に
ジャコウアゲハを中心に解説しましたが、これらの黒いアゲハチョウについて少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。長文でしたが最後まで読んでくださりありがとうございます。