寄生して内側から食い破る!昆虫界の死神、謎多き寄生バチの生態

2024年2月14日アゲハヒメバチ

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こんにちは!生き物大好きゆるとと申します!

この記事では、寄生バチってどんな昆虫?、アゲハチョウ類を専門的に狙う「アゲハヒメバチ」の生態自然界での役割と人間の苦悩について解説していきたいと思います。それでは行ってみましょう!

寄生バチとは?

ハチ目の昆虫のうち、幼虫時代の生活が他の生物に寄生して成長する種類をまとめて「寄生バチ」と呼びます。

大きく分けると、植物に寄生するタイプ、昆虫などの物に寄生するタイプに分けられます。昆虫などに寄生するタイプは、昆虫・クモ・ダニ・同じ寄生バチの種類など多くの種類がいます。

さらに大きく2つに分けられ、

・永久に麻酔で眠らせて卵を産み付けるパターン

・体内に寄生し、宿主とともに成長するパターン

などなど、他にも大きい分類がまだまだ分かれていきます。

似た種類に「狩り蜂」がいますが、寄生バチとの違いは、「獲物を自分の巣まで運ぶかどうか」で区別されています。狩り蜂は獲物を巣まで運んでから卵を植え付けます。

研究者泣かせ?余りに多種多様

寄生バチとは?の説明を読んで、「やたらと分類が多いなー」と思ったそこのあなた、大正解です。この寄生バチはやたらと分類が多く、今回はかなり大雑把な説明をしていますが、分類の話だけで記事が一つ書けてしまうほど本当に多種多様です。

寄生バチのグループは日本だけでも1600種類以上いて、全世界を合わせると2万5000種類以上とされています。あまりに多種多様でなかなか研究が進んでおらず、似たような種類も多いため分類が難しく、未発見の種類とまだ分類されていない種類を合わせると8万種近くに上るのではないかとも言われています。

ちなみに地球上の哺乳類・鳥類・爬虫類を合わせた数が約2万5000種類なので、寄生バチの種類が圧倒的な多さなのは理解していただけると思います。

今回の主役、アゲハヒメバチ

アゲハヒメバチとは?

この記事を読んでくださっている方は、アゲハチョウの幼虫を育てて成虫になるのを楽しみにしていたことがあると思います。

そしてサナギになっていつ蝶々になるかと観察していると、いつの間にかサナギに穴が開いて中が空っぽになっていた・・・、なんてことよくありますよね。その犯人が今回紹介するアゲハヒメバチです。

アゲハヒメバチは体長16mmほどの大きさで、北海道、本州、四国、九州に分布しています。名前の通りアゲハチョウ類を専門にしている寄生バチです。

寄生されたイモムシの末路

ではアゲハチョウの幼虫は、どのタイミングで寄生されるのでしょうか?答えは、卵からふ化してから幼虫の期間ずっと狙われ続けます。

まずアゲハヒメバチがイモムシを見つけて卵を産み付けます。そしてイモムシは寄生されたのがウソのように元気に成長します。特に成長に支障もなく大きくなり、サナギになります。

するとこの時を待っていた寄生バチの幼虫が、サナギを食べつくし一気に成長サナギの中でサナギになりハチの姿へと羽化するとアゲハチョウのサナギを食い破り飛び立っていきます。

獲物の痕跡をたどり接近

アゲハヒメバチはアゲハ類を専門に狙う寄生バチです。寄生するイモムシを見分けるために触覚が発達しています。

昆虫の触角は、匂いやフェロモンなどを感じ取る「嗅覚の役割」と、熱や振動、感触を感じ取る「触覚の役割」があります。

アゲハヒメバチもこの触角を使って、獲物の匂いや振動などを感じ取って狙っているアゲハチョウの幼虫を探し出します。

激しい攻防の末、卵を産み付ける

目の前にいるイモムシがアゲハチョウの幼虫だと確信すると、いよいよ戦闘態勢に入ります。

アゲハチョウの幼虫も黙ってやられる訳ではなく、頭の後ろから、強烈な悪臭を放つ「オレンジの角」を出して戦います。このオレンジの角は「臭角」と呼ばれ、特殊な粘液が含まれています。

アゲハヒメバチは繊細な触角を持っているので、幼虫の臭角が体や触覚に触れると悪臭を放つ粘液がこびりつき、もだえ苦しみます。

植物の葉や枝に体を擦り付けながら転がりまわるなど、かなり苦しむ様子を見せますが、寄生バチも人生がかかっているので何度もトライし卵を産み付けます。

実はリスクの塊!寄生人生

寄生バチや寄生虫など、自力で餌をとらない生き物は「楽している」とか「卑怯だ!許せない!」と思うことがあるでしょう。でも冷静になって考えれば、かなりリスクのある人生だとわかります。

一言で言ってしまえば、宿主のリスクがそのまま自分のリスクになります。例えば、イモムシの天敵がそのまま自分の天敵になります。

イモムシの天敵は数多く、鳥・スズメバチなど肉食のハチ・カマキリ・くも・アリ・肉食のカメムシ類・肉食のバッタ類・トカゲ・人間の子供・農薬・同業者の寄生バチ、などなど

他にも病気になるリスクイモムシのいる場所に食べれるエサがないリスク同業者の寄生バチと栄養の奪い合いになるリスク・・・などなど、最終的には宿主の生存率がそのまま自分の生存率になります。

ナミアゲハについて

生態と生存率

それでは宿主のアゲハチョウについて見ていきましょう。代表として「ナミアゲハ」の生態を解説したいと思います。

ナミアゲハはミカン科の植物に産卵する習性があり、幼虫はミカン科の植物だけを食べて、3月〜10月の間に2~5回のサイクルで成虫になります。冬は蛹で越冬し、春になるとまたミカン科の植物に産卵します。

卵から成虫になる確率はたったの0.6%ほど。1匹のメスが生む卵は100個ほどなので、1匹生き残れば上出来です。こんなに生存率が低いアゲハチョウに寄生するなんてなんかいじめているみたいな気がするのは気のせいでしょうか?

もしも生存率が高かったら

寄生バチの存在も生存率が低い原因の一つですが、もし生存率が高かったらどうでしょう。

ナミアゲハは、1年で5回成虫になるとして、すべてが成虫になると1匹から1250万匹まで増える計算になります。

当然、ナミアゲハは多数いますから、10匹ならば1億、1000匹ならば100億匹まで増えます。こうなってしまっては、みかん農家さんは生活ができなくなります。ナミアゲハの幼虫は、みかんを専門に食べる昆虫だからです。このように昆虫は何かを専門的に食べる傾向があるので、一つの種を専門的に食べる寄生バチの存在が自然界のバランスを保つ役割を持っています。

農薬代わりに利用される種類も

天敵を利用した農法

アゲハヒメバチのように、寄生バチは一種類の獲物を専門的に狙う習性があります。みかん農家さんにとっては「害虫のナミアゲハだけ」を駆逐して、他の役に立つ昆虫は殺さない頼もしい味方、という事になります。

何でも利用する人間が、この習性に気が付かないわけはありませんでした。すでに生物農薬として研究が進み商品化している寄生バチの種類もいます。

メリット

一番のメリットは「害虫だけ」を狙い「役に立つ生物は殺さない」という、農薬にはな効果です。他にも、

薬と違い耐性がつかない

どんな場所にいても見つけて駆除する

無農薬野菜が作れる

薬が効かない害虫にも効く

使用回数に制限がない、などがあります。

デメリット

やはりデメリットも多くあります。

即効性がない

害虫を全滅させることはできない

複数の種類の害虫には効果がない

長期保存ができない

外来種の寄生バチの場合生態系に影響を与える危険、などなど生き物を扱うのは簡単ではありませんね。

最後に

寄生バチには本当にいろいろな種類がいて、毒である種のゴキブリを操り巣まで自分で歩かせて連れていく種類や、数十個の卵をイモムシに植え付けて大量のウジ虫がイモムシを食い破って出てくる種類など、魅力的な仲間がたくさんいます。何かの生物に「寄生される」というのは命にかかわるので、寄生生物に嫌悪感を抱くのは本能だと思います。ですが寄生バチが人間に寄生することはないので安心してください。この記事で寄生バチに少しでも興味がわいてもらえたら嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございます。