寄生して内側から食い破る!昆虫界の死神、謎多き寄生バチの生態
はじめまして。館長のゆるとです!
この記事では、アゲハチョウ類を専門的に狙う寄生バチ、「アゲハヒメバチ」の魅力を解説します。
アゲハヒメバチの「生態」、「自然界での役割」や「人間の苦悩」などについて深堀していきます。
それでは見ていきましょう!
寄生バチとは?
ハチ目の昆虫のうち、その「幼虫」が他の生物に寄生し、成長する種をまとめて「寄生バチ」と呼びます。
寄生バチ最大の特徴は、特定の種族のみをターゲットにすることです。例えば「アゲハチョウ専門」「モンシロチョウ専門」といった具合です。
寄生バチを大きく分類すると、昆虫などの「動物に寄生するタイプ」と「植物に寄生するタイプ」に分かれます。
また宿主に「寄生」する方法も多様ですが、大雑把に分けて以下の2種類です。
- 宿主を麻痺毒で永遠に眠らせ、卵を産み付けるタイプ
- 宿主の体内に産卵し、宿主とともに成長するタイプ
これ以上は深堀しませんが、「寄生バチの分類」はまだまだ序の口です。
ちなみに「狩りバチ」と「寄生バチ」の違いは、「獲物を巣まで運ぶか否か」で区別します。
「狩りバチ」は、獲物を巣まで運んだ後に卵を植え付けます。
研究者泣かせ?余りに多彩
ここまでの解説で、「なんだか分類、分類ってしつこいな」と思ったそこのあなた、大正解です。
というのも、寄生バチは尋常ではないほど種類が多いんです。
寄生バチのグループは日本で1600種類以上、全世界では2万5000種類以上。「未発見の種類」と「明確に分類されていない種類」を合わせると8万種近くに上るのではないか、とも言われています。
ちなみに、地球上の「哺乳類・鳥類・爬虫類」を合わせた数が「約2万5000種類」である点を踏まえると、寄生バチがいかに多種多様かご理解いただけたと思います。
「寄生バチに酷似した昆虫」も非常に多く、正確な分類が難しいため、寄生バチの研究は困難を極めています。
今回の主役、アゲハヒメバチ
アゲハヒメバチとは?
みなさんの中には、アゲハチョウの幼虫を育てて、成虫になる様子を観察したことがある方もいらっしゃることでしょう。
そして幼虫が「サナギ」になり、羽化する瞬間を待ちわびていると、いつの間にかサナギに穴が開いて「中が空っぽ」になっていた・・・。
なんてことは、よくありますよね。その犯人が今回紹介するアゲハヒメバチです。
「アゲハヒメバチ」は体長16㎜ほどの大きさで、「北海道・本州・四国・九州」に分布。名前の通り、「アゲハチョウ類のみ」をターゲットにする寄生バチです。
ターゲットを「判別」する方法
アゲハヒメバチは、どうやってアゲハチョウ類と他のチョウ類を「見分けて」いるのでしょうか?
答えは「触覚」です。
アゲハヒメバチは、「高性能な触覚」でターゲットの痕跡を感じ取り、アゲハチョウの幼虫を探し出します。
昆虫の「触角」は、匂いやフェロモン、熱・振動などを感知する器官です。
イモムシとの激しい攻防
アゲハヒメバチは、見つけたイモムシが「アゲハチョウの幼虫」だと確信すると、直ちに戦闘態勢に入ります。
しかし、アゲハチョウの幼虫もすぐに戦闘態勢をとり、頭部から強烈な悪臭を放つ「オレンジ色の角」を出して応戦。
アゲハヒメバチは「繊細な触角」を持っているので、幼虫の「オレンジ色の角」が体に触れると、「葉や枝に体を擦り付けながら転がりまわる」など、もだえ苦しみます。
ですが、アゲハヒメバチも子孫を残すために必死です。諦めずに何度もトライし、卵を産み付けます。
幼虫が出すオレンジの角は「臭角」と呼ばれ、外敵に対して「毒性や忌避性」を持つ特殊な粘液に覆われています。
宿主の末路
卵を産み付けられたイモムシは、何事もなかったかのように、スクスクと成長し、サナギになります。
すると、この時を待っていたアゲハヒメバチの幼虫が、「サナギ」を一気に食べつくし成長。
チョウの「サナギの中」で羽化してハチの姿になると、サナギを食い破り飛び立っていきます。
リスクの塊!寄生人生
「寄生生物」に対して、マイナスイメージを持つ方は少なくないでしょう。
「楽して甘い蜜を吸っている」とか、「ずるい!卑怯だ!」と感じる方もいるはずです。
しかし冷静に考えると、「寄生生物」の人生は非常にリスキーだと言えます。
宿主と寄生生物は「運命共同体」であり、「宿主の死=自分の死」となります。例えば、「イモムシの天敵」がそのまま「自分の天敵」になる、といった具合です。
イモムシの「天敵」は数えきれませんが、一部を紹介します。
- 鳥類
- スズメバチ
- カマキリ
- 肉食のカメムシ類
- 肉食のバッタ類
- トカゲ類
- 人間の子供
- 農薬
- 同業者の寄生バチ などなど
宿主の危機は「天敵」だけではありません。「病気・餓死・複数の寄生による衰弱死・・・」など、常に死と隣り合わせです。
まとめると、「宿主の生存率」がそのまま「自分の生存率」になるということです。
ナミアゲハについて
宿主の「アゲハチョウ類」についても簡単に解説します。
生態
「アゲハチョウ類」の代表として、「ナミアゲハ」の生態を解説します。
「ナミアゲハ」はミカン科の植物に産卵する習性があり、約1か月〜2か月で成虫に。
幼虫はミカン科の植物だけを食べ、冬はサナギの状態で越冬します。
生存率は低い
ナミアゲハが卵から成虫になる確率は、「0.6%程度」です。
「1匹のメス」が生む卵の数は「100個程度」なので、1匹生き残れば上出来と言えます。
ただでさえ生存率が低いのに、様々な寄生生物に狙われるナミアゲハは、なんとなく「かわいそうに思える」気がします。
反対に、ナミアゲハの「生存率が高い」とすると、何が起きるでしょうか?
生存率が高いと・・・
ナミアゲハの「生存率」が高い場合、何が起きるか考えてみましょう。
通常、ナミアゲハは1年で2〜5回産卵します。
もし、すべての卵が成虫になると、ナミアゲハ1匹から「約1250万匹が羽化する」計算になります。
ここで忘れてはならないのが、「アゲハチョウ類」の幼虫は「ミカン科の植物のみを食べる」点です。
野生のナミアゲハは数えきれないほど生息しているので、「生存率が高い」場合、エサにしている「ミカン科植物」が絶滅しかねません。
身近な「ミカン科植物」には、「ミカン・オレンジ・伊予柑・デコポン」などがあり、これらのフルーツ農家さんは大打撃を受けるでしょう。
まとめると、寄生バチのような「天敵」の存在が、自然界のバランスを保つ役割を担っているのです。
農業に利用されている?
この章では、「生物農薬」について簡単に解説します。
害虫の「天敵」を利用する農法
アゲハヒメバチのような寄生バチは、特定の虫類のみをターゲットにします。
人間はこの習性を農業に応用し、害虫の「天敵」を利用した「生物農薬」について研究、商品化に成功しました。
生物農薬のメリット
- 害虫以外の生物を殺さない
- 野菜への悪影響がない
- 農薬散布と比べ、手間が少ない
- 農薬と違い「耐性」が付かない
- 農薬の効果が薄い害虫も、駆除できる
- 隠れている害虫も見つけ出し、駆除してくれる
「生物農薬」は「捕食」によって害虫を駆除するので、手間をかけずに「無農薬野菜」が作れます。
デメリット
「生物農薬」もメリットばかりではありません。
- 速攻性がない
- 害虫を全滅させることはできない
- 害虫によって「天敵の種類」が違う
- お金がかかる
- 長期保存できない
- 「生物農薬」が逃げ出すと、生態系に影響を与える可能性がある
あくまで「生物を利用」しているので、思い通りの結果を出すには「深い知識」と「技量」が必要です。
最後に
寄生バチの中には、「ゴキブリを操り、ハチの巣まで歩かせてしまう種」や「数十匹のハチの幼虫が、イモムシを食い破って出てくる種」など、魅力的な仲間がたくさんいます。
「生物に寄生される」ことは命にかかわるため、寄生生物に嫌悪感を抱くのは本能だと思います。
ですが、寄生バチは人間に寄生しませんので、ご安心ください。
この記事を読み、寄生バチに少しでも興味を持っていただけたなら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。